いやぁ、今年は音楽系映画の当たり年ですね。先日、DJを題材にしたフランス映画「EDEN」を観てきました。いちDJのはしくれとして感じるものがあったので綴ってみます。
音楽映画かと思ったら青春映画だった
舞台はフランス。DJに翻弄されたある男の人生を20年にかけて描く物語。
ストーリーは2部構成。90年代のフランスにおいてダンスミュージックが台頭した「フレンチタッチ」と呼ばれるムーブメントを背景に、主人公がDJとして脚光を浴びる第1部「パラダイス・ガラージ」。主人公がDJとしてのピークを過ぎて人気に翳りが見え、あらゆるものを失う過程を描く第2部「ロスト・イン・ミュージック」。
時間配分は1部の方が多いものの、2部がとても現実的で重く描かれているので、観終わったあとはちょっとセンチメンタルな気分になりました。
見どころは3点。
①使用される楽曲
主人公が影響を受けてDJとして選曲する音楽ジャンルは「ガラージ」と呼ばれています。これは70~80年代にかけてニューヨークで隆盛を極めた伝説のクラブ「パラダイスガラージ」でラリーレヴァンが選曲していた楽曲群を指しているわけですが…う~ん、ディープハウスと言ったほうが適切かなと思いました。ガラージはもっと広義でディスコやロック、ファンクなんかも含んでいてジャンルとして括るのには少し違和感があります。まぁ、主人公がラリーに影響を受けたというくだりがあったのでガラージとしたほうが都合がよかったとは思いますが。
ディープハウス好きな私にとってはたまらない選曲でした。サントラ買おうかな。
観客が歌詞を唄いながら踊るシーンはハウスの魅力をうまく表してくれていました。
②ダフトパンクが実名で出演(本人出演ではないけど)
なんでも物語は監督の兄の話がベースとなっており、兄と親交のあったダフトパンクが登場しています。いくつかエピソードが入ってますが実話なのかフィクションなのかは定かではありません。(でも、本当っぽい。)また、本人たちの楽曲が使われていて、これらの使い方が絶妙でした。(特に終盤のシーンでの使い方が素晴らしかった!)観た後にアルバムを1stから聴き返したい衝動に駆られる人多いと思います。
映画を観て、Daft Punkを聴き直している人は少なくないはず。久々に1st聴いたらDOPEでカッコいい。
#EDEN
— 得能 和也 (@toku0909) 2015, 9月 10
③ポーリーヌ・エチエンヌがとてもキュート
主人公の恋人役で登場するこの女の子がとても可愛いです。見惚れます。
調べるとベルギーの女優さんで日本が舞台になっている「東京フィアンセ」という映画にも出演しているとのこと。しかしこの映画、日本未上映どころかDVDの日本版もないようです。配給会社さんよろしくお願いします。
とまぁ、音楽要素はふんだんに入っているのですが、時代描写より主人公の人生にフォーカスしているので、音楽映画というよりは青春映画という印象でした。
フランス映画らしさが気に入った
フランス映画って、「LEON」 「最強のふたり」くらいしか観ていないんですが、Yahooのレビュー見ると「フランス映画らしい」というようなコメントをよく見かけました。それは何かというと、
- 背景描写がやや雑
- 退廃的
- エンディングらしからぬ最期
だそうです。
総じてハリウッド映画とは対照的ってことですが、言われてみるとどれも当てはまる気がします。なんせ主人公の15年の半生を2時間弱に収めてるので結構飛び飛びなところがあります。その一方で主人公の心理描写(主にネガティブなときの)のシーンを間延びするくらい引っ張るところもある。この“非効率さ”がかえって新鮮でよかったです。
エンディングも「ここで終わるか!」という終わり方。モヤッとはするけど、主人公の人生はこれからもこうやって続いていくんだなと納得するところもありました。
主人公の栄枯盛衰ぶりに自分の20代が重なった
私も趣味程度ですがDJをしておりまして、若い頃は仲間とイベントをやっておりました。
こんな主人公ほどの人気があったわけではないし、集客もほとんど人脈が豊富な友達のおかげということもありましたが、100人超のお客さんが入ったフロアでレコードを回し、フロアが盛り上がる瞬間を体験しちゃった日にはもう地球は自分中心で回ってるんじゃないか錯覚を覚えるわけです。
私は4回目でこの夢から醒めて(集客が赤字になり)、早々とクラブイベント企画から引退するわけですが、主人公は何年もの間この夢うつつに浸っていたので借金を積み重ねてでもこの環境にしがみつきたかった心境はわからなくもないです。
この主人公が廃れていく過程が印象的に描かれていたところは、この映画の見所の一つだと思います。
必ずしも “クラブに行く=音楽を楽しむ” ではない
お客さんはゲストリストに入れた知人(無料)が大半、お客さんの新規開拓を狙ってプレイの路線変更を打診される(やっぱ今はEDMなんでしょうね)、これはクラブイベントやったことある人間は思わず笑ってしまうあるあるでした。
こういったシーンを観て思ったのは、すべての人がクラブに音楽音楽を求めているのではないんだなと。仲間と賑わうことだったり、盛り上がった雰囲気の中にいることだったり。否定するわけじゃないけどちょっぴり寂しい。
だってこの映画でガラージと呼ばれている音楽は時代が変わっても色褪せない素晴らしさがあるのに!Tony Humphriesが本人役で出演していて、彼がプレイするフロアで主人公と彼女が飛び跳ねて踊っているシーンがありますが、あれこそクラブの一番の楽しみ方だなって思います。(↓はTonyのプレイ映像)
この映画では「フレンチ・タッチ」について詳しくふれられてるわけではないし、DJをする主人公は栄光の部分より没落の部分の方にフォーカスされている。だからこの映画を観て、「ハウスっていいな!クラブ行ってみようかな!DJやってみようかな!」となる人は少ないかもしれない。
それでも劇中で使用されている楽曲やフロアで盛り上がるシーンが少しでも印象に残ったのなら、ぜひクラブに一度足を運んでほしいし、ダンスミュージックを聴いてほしいと思います。
各地で上映されるみたいなので、ぜひ劇場の大画面と大音量で観てもらいたいです。
劇場情報→http://www.eden-movie.jp/theater.html
おしまい